リファラル採用(社員紹介制度)の規程・報酬・雛形の例をわかりやすく解説
近年、人材の獲得競争が激しさを増すなかで、求人広告や人材紹介だけでは応募数やマッチング精度を維持することが難しくなっています。
そこで多くの企業に注目されているのが、社員のネットワークを活かして信頼できる人材を紹介してもらう「リファラル採用」という採用手法。
自社の文化や価値観に共感した人材と出会いやすく、採用コストを抑えながら定着率の高い採用が実現できる手法として、多くの企業で導入が進んでいます。
一方で、制度を導入したものの「報酬条件が曖昧」「運用ルールが統一されず形骸化している」といった課題に直面するケースも少なくありません。
そこで本記事では、リファラル採用の基本概念から、規程の作り方・報酬設計の考え方・雛形(テンプレート)例までをわかりやすく整理。
制度を形だけで終わらせず、社内に浸透させたい方に向けて、実践的なポイントを解説します。
目次
リファラル採用(社員紹介制度)とは
リファラル採用とは、自社に属する社員が信頼できる知人や友人、過去に共に働いた人材を会社に紹介し、採用につなげる制度のことです。
求人広告や人材紹介会社のように第三者を介さないため、採用コストを抑えつつ、企業文化になじみやすい人材と出会える点が大きな特徴。
自社をよく理解した社員が紹介することで、採用スピードの向上や早期離職の防止につながり、そのために多くの企業が導入を進めています。
近年の採用難やミスマッチ増加を背景に、「量より質」を重視する採用手法として注目。
紹介を受けた候補者は、社員を通じて会社の雰囲気や実情を事前に理解しているケースが多く、入社後のギャップが少ない傾向があります。
一方で、報酬条件や紹介ルールが曖昧なままだと、不公平感やトラブルにつながるリスクも。
そのため、多くの企業では、対象者・報酬・手続きの流れを社内規程として明文化し、全社員に周知したうえで運用しています。
信頼関係を土台に、組織全体で協力しながら人材を迎え入れる――それがリファラル採用の本質であり、持続的な採用活動を支える仕組みといえるでしょう。
リファラル採用規程を設ける目的

リファラル採用を制度として定着させるには、明確なルールが欠かせません。
報酬の条件や対象範囲が曖昧なままだと、不公平感やトラブルに寄与。
社内全体で共通認識を持つことが、制度を継続させる前提となります。
スムーズに運用するためにも、ルールを文書化し、判断基準を統一しておく必要があるでしょう。
ここでは、制度化によって得られる主な目的を整理します。
報酬や条件の明文化でトラブルの防止
リファラル採用は、紹介者・被紹介者・人事担当が関わる制度です。
条件が曖昧なまま進めると誤解や不満につながります。
例えば「紹介したのに報酬がない」「アルバイトの紹介も対象なのか」といった声。
制度を継続的に運用するには、こうしたズレをなくす仕組みづくりが欠かせません。
報酬が支払われる条件を明文化すると、誰が・いつ対象となるのかが明確になります。
「入社後3か月在籍している場合のみ支給」といった基準を例として示す方法。
支給対象者の範囲も同様です。
正社員だけなのか、契約社員・パートも含むのかを事前に決めておきましょう。
さらに、例外条件も制度の信頼性に関わります。
リファラルでの紹介後すぐに退職した場合や、自部署への自己推薦のようなケースをどう扱うのかも示しておく必要があるでしょう。
リファラル採用でのルールや条件を内容を文書化し、全社員が確認できる形にしておくことで、不公平感を避けながら制度を安定して運用可能。
社員の理解促進・制度の公平性担保
リファラル採用制度を浸透させるには、制度の存在を知らせるだけでは不十分です。
内容を「正確に理解し、自分ごととして捉えてもらえる状態」にすることが重要。
しかし、制度があることを知らない社員や、部署によって報酬条件の解釈が異なるケースも見られ、そのまま運用を続けると、不公平感や不信感につながり、制度への参加意欲が下がってしまいます。
こうしたトラブルを避けるには、対象者・紹介の流れ・報酬支給の条件などをわかりやすく整理し、社内説明会やイントラネット、動画など複数の手段で繰り返し発信することが欠かせません。
また、紹介者だけでなく、採用された側に内容がきちんと共有されていることも信頼に寄与。
この制度が公平であると全社員が実感できれば「紹介しても大丈夫」という安心感が生まれ、参加者が徐々に増えていきます。
この理解促進こそ、制度定着の出発点です。
社内での認識統一・運用効率化
リファラル採用を安定して運用するには、人事部だけではなく、現場責任者や経営層までを含めた共通認識の形成が欠かせません。
紹介受付から選考、内定、報酬支給までの流れをフローチャートとして明文化し、担当部署・判断基準・承認者を明確にしましょう。
属人的な対応や「誰に聞けばいいのか分からない」という停滞を防げます。
また、申請フォームや報酬申請のテンプレートの統一で、問い合わせや差し戻しも削減可能。
よくある質問や導入後のトラブル事例をFAQとしてイントラに集約しておけば、判断のばらつきや対応スピードの低下も起こりにくくなります。
ルール変更時は、人事・経営・法務で協議し、改定履歴と承認プロセスを残すことで、制度全体の透明性と信頼性も維持できるように。
法的リスクの回避と労務管理の明確化
リファラル採用は、社員が知人を紹介する制度です。
報酬や情報の扱いが曖昧なままだと、思わぬトラブルにつながります。
例えば「採用されたのに報酬が支払われない」「紹介者の個人情報が勝手に使われた」など。
このような事態を防ぐには、まず報酬の扱いを明確にすることが必要。
紹介報酬は給与にあたるため、源泉徴収や在籍要件の記載が欠かせません。
支給時期や対象範囲も、文書にして共有しておくことが望まれます。
加えて、個人情報の取り扱いも重要であり、利用目的、保管期間、管理者などを定め、個人情報保護法に沿った形で運用することが求められます。
制度を設計する際は、人事部門だけで完結させず、法務や社労士などの専門家と連携しながら進めることが望ましく、法的リスクを未然に防ぎ、制度の信頼性と実効性を高めるためにも、専門的な視点を取り入れることが重要です。
導入前に文書化とチェック体制を整えることで、制度全体の信頼性を高められます。
リファラル採用規程の基本構成・書き方のポイント

リファラル採用規程は制度を形だけ整える文書ではありません。
社員が安心して紹介できる状況を作り、運用のばらつきを防ぐための枠組みです。
そのため、内容を誰が読んでも同じように理解できる構成と表現が求められ、目的や対象者、報酬条件などを順序立てて示し、判断に迷う余地を残さないことが重要。
制度を導入することが目的ではなく、実際に社内で活用される文書として機能させる視点こそが、継続的な運用につながります。
規程に盛り込むべき主な項目
リファラル採用規程を形だけの制度で終わらせないためには、まず制度の目的と適用範囲を明確に示すことが欠かせません。
どの社員に適用され、どのような目的で制度が設けられているのかを明記することで、社内全体で共通の理解が生まれます。
続いて、紹介の手順や申請方法も具体的に定めましょう。
リファラル紹介時の申請フォームの提出先や入力項目、口頭申請の可否などをあらかじめ示しておくことで、運用時の混乱を防止可能。
また、報酬額や支給条件は誤解が生じやすい部分で、「在籍◯か月後に支給」「試用期間中の離職は対象外」など、判断基準を明文化しておくと認識のズレを防止できます。
さらに、契約社員やアルバイト紹介の扱い、対象外となるケースを明確に線引きすることで、公平性と透明性を保てます。
運用体制についても、人事部門が管理するのか、各部署責任者が承認するのかといった役割分担を定め、責任の所在を明らかにしておくことが重要。
最後に、制度の変更・廃止・免責事項をあらかじめ規程しておけば、環境変化に応じた見直しをスムーズに行うことができます。
規程文のトーンと表現方法
リファラル採用規程は、全社員に適用される正式な社内文書です。
そのため、説明的な言い回しや敬語ではなく、就業規則と同じく「〜とする」「〜を原則とする」といった規程文体で統一する必要があります。
表現を揺らさず、誰が読んでも同じ意味で解釈できる文章に整える姿勢が重要。
一方で、「原則」「場合によっては」といった曖昧な語句を多用すると判断基準が人によって異なり、制度の公平性が損なわれる恐れがあります。
使用する際は、例外条件や判断主体を文中で明確にしておくと混乱を防止。
また、専門用語や略称は部署によって理解度が異なるため、初出時には定義を添えるか、可能であれば分かりやすい用語に言い換えたほうが適切です。
文章は一文を長くしすぎず、主語と述語の対応をはっきりさせると、規程全体の信頼性が向上。
規程は制度の紹介文ではなく、運用を支えるルールそのものです。
したがって、「公平性」「一貫性」「判断可能性」の3点を満たす表現でまとめることが重要になります。
規程を明文化する際の注意点
リファラル採用規程を正式な文書として整える際は、内容を記載するだけでなく、「誰が承認し、誰が管理するのか」まで明確にしておく必要があります。
とくにに設計段階から、経営・人事・法務の三部門が関与し、制度の目的・適用範囲・報酬条件などの判断基準を共有しておくと、承認プロセスの流れがスムーズ。
また、法改正や制度変更に備えて「年1回の見直しを行う」「変更時は取締役会で承認を得る」など、改定サイクルや責任部署をあらかじめ定めておくと運用が安定します。
最新版の規程はイントラネットや共有フォルダに掲載し、社員がいつでもアクセス・確認できる状態を保つことが重要です。
条文の末尾には、施行日・改定日・承認者・問い合わせ窓口・改定履歴を明記し、必要に応じて署名欄や版数管理も加えるとよいでしょう。
こうすることで、社内外からの監査にも耐えられる信頼性のある規程になります。
リファラル採用規程の雛形例(テンプレート例)
リファラル採用を制度として定着させるためには、内容を文書化し、誰が読んでも同じ理解が得られる状態に整えることが不可欠です。
ただし、ゼロから規程を作成するのは容易ではなく、条文の構成や表現方法で手が止まってしまうケースも少なくありません。
ここでは、実務ですぐ活用できるよう、章立ての全体構成・報酬条件の文例・禁止事項・付則例などをテンプレート形式で整理。
形式をそのまま流用するのではなく、自社の組織規模や雇用形態、報酬体系に合わせて柔軟にカスタマイズできる構造としていますので、初めて制度設計に取り組む担当者でも、スムーズに社内稟議用のドラフトへ落とし込むことができます。
全体構成例
リファラル採用規程は、制度を継続的に運用するための土台です。
内容に抜けがあると、報酬の支払い漏れや不公平感につながります。
まず全体の構成を整理し、社内で共有できる形に整えることが重要。
以下に代表的な章立てと、それぞれの目的を示します。
これらの構成は一例です。
企業の規模や雇用形態によって必要な項目は異なります。
そのため、このテンプレートを自社の実情に合わせて調整することが前提。
最終的には、就業規則やほかの社内制度との整合も確認しながら完成させます。
報酬・支給条件の文例
報酬や支給条件は、制度の公平性と信頼性を左右する重要な項目。
曖昧な表現のまま運用すると、「紹介したのに支払われない」「在籍条件の判断が部署で異なる」などのトラブルにつながります。
そのため、対象者・支給条件・支払時期・例外事項を条文化し、誰が読んでも同じ判断ができる形に整えておくことが望ましいです。
以下は、実際の規程づくりにも利用できる文例です。
禁止事項・免責事項の記載例
リファラル採用制度を安全かつ公平に運用するためには、不正行為やトラブルの芽を事前に防ぐための「禁止事項」と、企業側の責任範囲を明確にする「免責事項」を規程文として定める必要があります。
ここでは、制度運用時によく発生する問題を踏まえた文例を提示。
禁止事項を明確に定めておくことで、社員のモラルリスクを防止し、制度全体の信頼性を高めることができます。
また、免責条項を設けておくことで「必ず支給しなければならない制度」にならず、会社として柔軟な制度運用がしやすくなります。
これらの項目は、自社の規模や採用プロセスに合わせて適宜カスタマイズし、現場で実際に機能する内容に整えることが重要。
制度運用に関する付則例
リファラル採用規程は制度として機能させるため、施行日・運用責任者・改定手順などを明記する「付則」部分を設ける必要があります。
この部分が曖昧なまま制度を開始すると、制度の有効性や責任の所在が不明確となり、社内からの信頼を失いかねません。
ここでは、実際の規程文に反映しやすい付則表現の例を紹介。
付則は単なる形式ではなく、制度の「公式性」と「継続性」を担保する役割を持ちます。
とくに改定履歴の保管や責任者の明記は、監査対応や運用トラブル防止にも直結する重要なポイント。
企業ごとに承認ルール(代表取締役決裁・取締役会承認など)が異なるため、自社のガバナンス体制に合わせて調整することも重要です。
リファラル採用における報酬規程の作り方
リファラル採用を制度として定着させるには、報酬の金額や支給条件を明確にし、社員が安心して紹介できる環境を整えることが必要です。
曖昧な状態のまま運用を始めると、「誰が対象なのか」「いつ報酬が支払われるのか」といった疑問や不公平感が生まれます。
こうしたトラブルを防ぎ、制度の効果を最大化するには、金額設定・支給タイミング・税務処理・モチベーション設計の4つを軸に報酬規程を設計することが大切。
ここからは、それぞれの考え方と実務的なポイントを整理します。
金額設定の考え方
リファラル採用の報酬額は、相場だけで決めるのではなく、採用単価や募集職種の難易度とのバランスを見ながら設計することが大切です。
一般的には、アルバイト紹介で5千円〜1万円、正社員採用では3万〜5万円、中途採用の専門職では10万円前後まで設定されるケースもあります。
しかし、金額を高くしすぎると「報酬目的の紹介が増える」「ミスマッチ採用を誘発する」といったモラルリスクにもつながるため、注意が必要。
金額を決める際は、まず自社の採用一人あたりのコストを把握し、求人広告や人材紹介会社を利用した場合の費用と比較することが有効です。
一般的に、人材紹介経由の採用コストは採用年収の20〜35%程度が相場とされています(職種や採用難易度によって変動します)。
この一部を社員への紹介報酬に置き換えることで、コスト削減と社員参画意欲の向上を両立可能。
また、職種別や採用難易度に応じて報酬額に差をつける階層型の設計も効果的です。
エンジニア・薬剤師など採用が難しい職種には10万円以上、総合職・営業職には3〜5万円といった形で段階を設けると、より現実的で公平感のある制度になります。
魅力と妥当性のバランスを意識しながら、社員が安心して紹介できる水準を設定することが重要。
支給タイミング
紹介報酬の支給タイミングは、制度の公平性と運用のしやすさを左右する重要なポイント。
早すぎる支給は「紹介だけで完結してしまう」状態を招きかねず、逆に遅すぎると社員のモチベーションが低下します。
多くの企業では「候補者の入社後〇カ月勤務」「試用期間の終了」「一定期間の在籍確認完了」などを支給条件としており、採用の定着度と制度の信頼性を両立させています。
例えば、支給タイミングとしてよく用いられるのは以下のような区分です。
ただし、支給を「試用期間終了後のみ」とすると、報酬までの期間が半年以上空くこともあり、紹介意欲の低下につながりかねません。
そのため、選考通過時や内定時に一部を支給し、入社後または試用期間満了時に残額を支払う「段階型」の設計が実務上運用しやすく、多くの企業で採用されています。
早期の成果を社員に還元しつつ、定着確認による公平性も担保できる点がメリット。
また、紹介者と被紹介者の双方に支給する形式にすると、制度への参加意識が高まりやすくなります。
自社の採用フロー・離職率・経理処理のタイミングなどを踏まえ、社員にとっても企業にとっても納得感のある時期を設定することが重要です。
税務・給与処理上の注意点
リファラル採用で社員に報酬を支払う場合、その扱いは「給与所得」に分類されます。
支給額に応じて所得税の源泉徴収が必要となり、給与明細にも「紹介報酬」や「紹介インセンティブ」などの名称で明記するのが一般的です。
従業員への紹介報酬は賃金(賞与・手当等)として扱われ、所得税の源泉徴収に加え、健康保険・厚生年金保険の標準賞与額および雇用保険の賃金総額にも算入されます。
住民税にも反映されるため、経理・人事・労務が連携して正確に処理を行うことが必要。
賃金支払については、労働基準法第24条の「賃金支払の5原則」に従うことが求められます。
現金手渡しは適法ですが、商品券や物品のみでの支給は認められません。
銀行振込も、本人の同意があれば問題ありません。
給与と別日に支払う場合は、就業規則や別規程で支給日を明確に定めておくことが必要。
実務上は、給与支給日と同日に振込で支払う形が最も望ましいといえます。
また、アルバイトやパートも従業員に該当するため、紹介報酬は給与所得として処理します。
一方で、業務委託者・元社員・外部協力者など、雇用関係にない者への支払いは「報酬・料金」に分類され、源泉徴収(原則10.21%)や支払調書の作成、消費税の課税区分の確認が必要。
なお、給与として支払う場合は消費税の課税対象外ですが、業務委託への「報酬・謝金」として支払う場合は消費税が発生することがあります。
支払主体や契約形態によって、会計処理や勘定科目(給与手当・支払手数料など)も異なるため、社内ルールをあらかじめ整備しておきましょう。
さらに、税務リスクを回避するためには、制度設計の段階で税理士や社会保険労務士など専門家の確認を受けることが望ましいです。
源泉徴収漏れや課税区分の誤りは、追徴課税や是正勧告につながる可能性が。
制度の信頼性を維持し、社員が安心して活用できる仕組みにするためにも、法令に沿った運用と記録管理を徹底することが重要。
社員モチベーションを高める設計ポイント
リファラル採用を形だけの制度で終わらせず、社員が「紹介したい」と思える仕組みにするには、金銭報酬だけでなく感情的・心理的な満足感を高める設計が重要。
紹介は自社への信頼や共感が前提となる行動であり、「会社のファンである社員」が増えるほど制度は自然に広がります。
そのため、制度を浸透させるときは、「紹介=評価される行動」であると伝えるとよいでしょう。
報酬以外のインセンティブも効果があります。
たとえば、社内報や全体会議での表彰、感謝メッセージの共有、記念品の贈呈などです。
紹介が成功した人に対して上司や経営層から直接感謝を伝えるだけでも、承認欲求や貢献実感に寄与。
また、「紹介した人・紹介された人の双方が歓迎される文化」をつくることで、制度の心理的ハードルが下がります。
さらに、「気軽に紹介できる環境づくり」も欠かせません。
Slackや専用フォームでの申請、候補者情報の入力負担を最小限にする仕組みがあると、行動に移しやすくなります。
キャンペーンや期間限定の報酬アップなど、社内施策として盛り上げるのも一つの方法。
紹介によって組織が良くなる実感を社員が持てることが、制度が根づく最大のポイントと言えます。
就業規程への反映と法的留意点
リファラル採用制度は社員の紹介行動に対して報酬が発生するため、運用ルールを就業規則や社内規程に正式に位置づける必要があります。
制度を文書化せずに運用すると、「報酬の支払い条件が曖昧」「支給対象の判断に一貫性がない」「法律違反のリスクに気づかない」といった問題を引き起こす原因になるかもしれません。
ここでは、就業規則への反映方法、他規程との整合性、労働基準法・税務上の注意点など、制度を正式な社内ルールとして定着させるためのポイントを解説。
就業規則への組み込み方法
リファラル採用制度を社内で安定的に運用するためには、就業規則または別規程として正式に位置づけることが欠かせません。
社員に報酬を支払う仕組みである以上、労働条件の一部とみなされ、労働基準法上の規程対象に。
規程の反映方法には「独立した社員紹介制度規程として制定する」方法と「就業規則の一部として報酬項目や別表に盛り込む」方法の二つが一般的です。
常時10人以上の労働者がいる事業場では、就業規則の作成・変更時に、労働者代表の意見書を添えて労働基準監督署へ届出が必要。
10人未満の場合は届出義務はありませんが、別規程として明文化し、労働者代表の意見聴取と社内周知を行うことが望ましいでしょう。
特に、報酬支給の条件・対象者・守秘義務・制度の適用範囲などを明記し、全社員が公平に理解できる形で記載することが求められます。
制度を文書で明確にしておくことで、支給トラブルや「知らなかった」という不信感を防げます。
会社規程集と整合性確認
リファラル採用規程を導入する際は、単独で運用するのではなく、他の社内規程との整合性を確認しておくことがポイントです。
特に関係が深いのは、就業規則・報酬規程・人事評価制度・個人情報保護規程の4つ。
例えば、紹介報酬の支給額や支給タイミングが報酬規程と異なる場合、社員に混乱や不信感を与える恐れがあります。
また、人事評価制度との連携も重要で、「紹介行為を評価対象に含めるのか」「報酬支給と評価は切り離すのか」といった点を事前に定義しておかなければ、判断のばらつきが生じます。
さらに、紹介者・被紹介者の個人情報を取り扱うため、個人情報保護方針とも内容を揃えなければなりません。
これらの整合性確認は、人事・法務・経理部門でクロスチェックし、改定履歴や確認記録を残すことで、制度の信頼性と運用の透明性を担保できます。
労働基準法・報酬処理上の注意点
リファラル採用における紹介報酬は、社員に支払う場合、労働基準法上「賃金の一部」とみなされ、現金手渡しや後払いは原則として認められません。
給与と同様に「通貨で支払うこと」「全額を支払うこと」「毎月一定期日で支払うこと」といった賃金支払の5原則に従う必要があります。
報酬が給与扱いとなる以上、所得税の源泉徴収や社会保険料の算定に含めるかどうかの判断も必須。
また、早期離職・試用期間中の退職・内定辞退などが起きた場合の扱いを曖昧にしておくと、「支払われないのは不当ではないか」といったトラブルにつながります。
労務・税務のリスクを防ぐためには、制度設計の段階で社労士や税理士の監修を受けておくことが望ましい。
就業規則との整合性も同時に確認しておきましょう。
制度定着と見直しのポイント

リファラル採用制度を導入しても、運用方法が定着しなかったり成果が見えなかったりすると、制度そのものが社内で形だけの存在になってしまいます。
制度を継続的に機能させるためには、「導入して終わり」ではなく、効果測定・改善・周知を繰り返し、企業の採用文化として根づかせることが重要。
紹介数や採用率の変化を数値で把握し、現場の声を定期的に収集しながら、報酬設定や運用ルールを見直す姿勢が求められます。
また、制度変更時には周知を徹底し、最新版の規程やドキュメントを整備しておくことで、社内の混乱を防ぎ、信頼性の高い制度運用につながります。
KPI設定と定期的な制度評価
リファラル採用を継続的に改善していくには、成果を数値だけでなく、現場の実感も含めて把握できる指標が必要です。
KPIとしては、紹介応募数の全体に占める割合や、紹介経由の内定率・定着率が中心となります。
さらに、紹介に関わった社員数の推移や部署ごとの偏りを確認すると、制度の浸透度も見えてきます。
制度満足度や参加率、心理的な負担といった定性的な評価も見過ごせない視点。
評価は半期や年度ごとに実施し、人事が集計し、必要に応じて経営層や各部門と共有します。
その結果をもとに、報酬額の調整、紹介プロセスの見直し、社内広報の強化といった改善策を検討します。
KPIは採用コストの削減や採用の質向上といった制度の目的と結びつけると、評価の方向性がぶれず、納得感のある制度運用につながります。
社員アンケート・フィードバックの活用
リファラル採用の実効性を高めるには、制度を利用する社員や関係者の声を継続的に拾い上げる仕組みが重要です。
年に1~2回程度は、紹介した社員、紹介を受けた候補者の上司、採用担当など、立場の異なる人から意見を集める機会を設けるとよいでしょう。
制度運用の課題や心理的な抵抗感を早期に把握できます。
アンケートは匿名形式として「紹介しやすさ」「制度の理解度」「手続きの負担」「参加したくないと感じた理由」などを質問項目に含めるのがおすすめ。
数値化できる回答と自由記述を併用すると、定量と定性の両面から分析しやすくなります。
結果は人事が集計し、KPIの達成状況と照らして整理します。
改善内容が決まった場合は、対応の内容と実施時期を社内に共有することが大事。
意見を集めるだけで終わらせず、反映された結果を伝えることが制度への信頼と参加意欲につながります。
ルール改定時の社内周知とドキュメント整備
リファラル採用のルールを改定する際は、内容を伝えるだけでなく、就業規則や社内規程の正式な変更手続きも整えておく必要があります。
対象となる規程を明確にし、労働基準法に基づいて社員代表への説明や意見聴取を行い、必要に応じて労基署への届出や申請を進めましょう。
そのうえで、改定の目的、施行日、変更点をメールや社内ポータルで告知し、重要な部分は箇条書きや図で示します。
フロー図、申請フォーム、FAQ、マニュアルなど関連する文書も最新の内容に更新し、旧版は誤用を防ぐために別フォルダへ移し、版番号や更新日を明記して保管します。
問い合わせが想定される場合は人事や担当部署を窓口として示し、必要であれば説明会や動画を用意しておくのも効果的。
知らせるだけで終わらせず、社員が理解し、実際の業務で迷わず運用できる状態にすることがゴール。
リファラル採用規程を整え、制度を定着させよう
リファラル採用は、一度制度をつくっただけでは定着しません。
紹介の流れや報酬条件を明確にし、誰もが迷わず動ける状態に整えることから始まります。
小さくても実際に運用してみることが、成功への近道です。
最初から完璧な形である必要はなく、まずは試し、振り返り、改善する姿勢が何より大切。
紹介する側とされる側の気持ちが守られていれば、制度は続いていきます。
もし今、まだ仕組みが動いていないなら、最初の一歩は「社内にルールを示すこと」。
そこから少しずつ協力者が現れます。
今日始めた小さな仕組みが、数か月後には会社の力になるかもしれません。