一人当たりの採用コストの平均は?計算方法と改善ポイントを解説
「採用費がかさんでいる気がするけれど、適正なのかわからない……」 採用活動を進めるなかで、このような悩みを抱えていませんか?
実は、多くの企業が見落としがちなのが「一人当たりの採用コスト」の正確な把握です。
掲載費や紹介料といった目に見える支出だけでなく、採用担当者の人件費や面接官の拘束時間、教育工数といった「見えないコスト」を含めて計算しなければ、本当の費用対効果は見えてきません。
本記事では、採用コストの正しい計算式から、新卒・中途別の平均相場、さらに「採用の質を落とさずにコストを下げる」具体的な改善策までを徹底解説します。
効率的で無駄のない採用活動を実現したい担当者の方は、ぜひ参考にしてください。
目次
採用コストとは?

採用コストとは、企業が人材を獲得するために投じる費用の総称。
一般的には、求人広告の掲載費や紹介手数料、採用ツールの利用料といった「外部への支払い」ばかりが注目されがちですが、それは氷山の一角に過ぎません。
実際には、選考にかかわる社員の人件費や、現場社員の面接工数といった「社内で発生するコスト」も大きな割合を占めています。
これらを包括的に管理することで、初めて「採用活動の投資対効果(ROI)」を正しく評価し、無駄のない筋肉質な採用体制を作ることができます。
ここでは、採用コストの構造を正しく理解するために、構成要素を二つに分けて整理。
それぞれの項目にどのような費用が含まれるのか、詳しく見ていきましょう。
採用ROIについては、こちらの記事で詳しく解説しています。
採用ROIとは?計算方法や活用方法・ROIを高めるためのポイントを解説
外部コスト
外部コストとは、採用活動において社外のパートナーやサービスへ支払う費用の総称。
代表例では、求人広告の掲載費、人材紹介会社への成功報酬、イベント出展料などが挙げられ、近年では、スカウトサービスや採用管理システム(ATS)などの利用料もここに含まれます。
これらの費用は、チャネルによって課金形態が大きく異なるのが特徴です。
例えば、求人広告は「期間ごとの固定課金」、人材紹介は「入社決定時の成果報酬」、スカウトサービスは「通数や閲覧権への課金」が一般的。
採用競争が激化するなか、複数のサービスを併用で外部コストは年々増加傾向に。
だからこそ、単に「いくらかかったか」だけでなく「応募の質・スピード・定着率」といった成果と照らし合わせて費用対効果を検証することが重要です。
定期的に内訳を見直し、本当に自社に合ったチャネルへ投資を集中させることが、成果につながる採用システム構築への近道となります。
内部コスト
内部コストとは、採用活動において社内の人材や時間を投じることで発生する費用のこと。
採用担当者や面接官、最終選考を行う経営層などが費やす時間を金額(人件費)に換算すると、表面上は見えていなかった大きなコストが浮かび上がります。
書類選考や面接はもちろん、日程調整や社内共有、さらには内定者フォローやオンボーディング支援など、あらゆる工程でコストは持続的に発生。
しかし、これらは請求書として外部から届くわけではないため、通常の人件費(固定費)の中に埋もれてしまいがち。その結果、外部コストばかりが削減対象となり、疲弊する社内リソースの負担が見過ごされてしまうのです。
実際には採用費全体の半分以上を占めることもある内部コスト。
この見えないコストを定量化し、「見える化」することこそが、業務効率化や外部委託の判断を正しく行い、持続可能な採用活動を実現するための第一歩です。
一人当たりの採用コストを計算する方法
採用コストの計算で最も重要なのは、”費用の範囲” と “算出のルール” を統一することです。
曖昧なままでは、集計する人や時期によって数値がブレ、正しい分析ができなくなってしまいます。「どこまでを採用費に含めるか」を明確にルール化し、共通のモノサシで計測し続けることで、初めて年度ごとの正確な比較や改善効果の検証が可能に。
ここでは、コストを算出するための基本式と具体的な計算シミュレーションを紹介。
基本式と実際の計算例
一人当たりの採用コストは、以下のシンプルな式で算出できます。
採用コスト総額 ÷ 採用人数 = 一人当たり採用コスト
この数値を把握することで、採用の費用対効果を客観的に評価できるようになります。
例えば、年間の採用費総額が300万円で、3名の採用に成功した場合、1人あたりのコストは100万円です。ここで重要なのは、総額の内訳です。
求人広告費や紹介料といった「外部コスト」だけでなく、担当者の工数や面接官の人件費といった「内部コスト」も必ず合算しましょう。
仮に外部コストが250万円、内部コストが50万円だったとします。
さらに内訳を「求人広告100万円」「人材紹介150万円」「人件費50万円」と分解すれば、どこに予算が偏っているかが一目瞭然。
もし「人材紹介費が割高だ」と分かれば、リファラル採用やダイレクトリクルーティングへ切り替えるなど、具体的な改善策を立案できます。
このように、コスト構造を細かく分析することで、単に費用を抑えるだけでなく、浮いた予算を有効なチャネルへ再投資する「攻めの採用」が可能になります。
コストを見誤りやすいポイント
コスト算出時、最も陥りやすい罠が「外部コストだけの集計」で満足してしまうこと。
請求書のある求人広告費や紹介料は把握しやすいですが、面接官や担当者の拘束時間、日程調整、評価業務といった「社内工数」を金額換算できている企業は、意外と多くありません。
また、契約社員やアルバイト採用の経費、内定者フォロー、オンボーディング・研修準備費などもよく見落とされがちな「隠れコスト」です。
これらを除外してしまうと、実際の採用単価よりも数値が低く算出され「この手法は効率が良い」と誤った判断を下すリスクが生じます。
非効率なチャネルに予算を投じ続け、戦略全体の方向性を狂わせてしまう結果に。
採用活動に関わるすべての支出と工数を一度洗い出し、実態に即した数値を把握する、この「正しいコスト算出」こそが、採用活動を改善へと導くための不可欠な出発点となります。
一人当たりの採用コストの平均

一人あたりのコストを把握することは、採用効率を客観的に評価するための第一歩。
「自社の採用費は適正なのか?」を知るためには、市場の平均値という「物差し」が欠かせません。相場とのギャップを明らかにすることで、コストが高すぎる原因を特定したり、逆に投資不足による機会損失を防いだりするための改善策が明確に。
ここでは、新卒採用と中途採用のそれぞれの平均コストと特徴を整理し、なぜその費用差が生まれるのかという背景まで掘り下げて解説します。
新卒採用の平均費用
新卒採用は、中途採用に比べてプロセスが長期化しやすく、初期投資が大きくなる傾向。
合同説明会やインターンシップの運営費、パンフレットや動画の制作費、さらに内定者フォローや研修費など、母集団形成から入社後の受け入れまで、幅広いフェーズで支出が発生するため。
これらをトータルすると、一人あたりの採用コストは、平均70〜100万円前後とされており、理系学生や専門職の採用ではさらに高額になるケースも珍しくありません。
費用の内訳を見ると、リクナビやマイナビといった「ナビサイト掲載費」が全体の30〜40%を占めるのが一般的で、思うように応募が集まらない場合は、オプションや動画広告を追加購入することになり、結果として単価が吊り上がるリスクも孕んでいます。
一方で、学校推薦や自社サイト経由の採用はコストを抑えられますが、母集団形成に時間がかかり、担当者の工数(内部コスト)が増大するという側面も。
さらに近年は、採用の早期化とオンライン化に伴い、SNS運用や動画配信に注力する企業が増加し、従来の広報費に加え、コンテンツの企画・撮影・編集にかかる新たな人件費が発生。
新卒採用のコストは、単なる「掲載料」だけでなく、こうした「活動期間の長さ」や「広報手法の変化」によっても大きく変動します。
トレンドに合わせた投資は必要ですが、ROI(費用対効果)を定期的に検証し、優先順位を見極めることが、無駄のない採用を実現するカギとなります。
中途採用の平均費用
中途採用における一人あたりの採用コストは、平均100〜150万円程度が相場で、即戦力人材を求める緊急度や、マッチングの精度を重視するほど、費用は高くなる傾向にあります。
最もコストがかさみやすいのが「人材紹介会社」。採用決定者の年収の30〜35%を支払う成果報酬型が基本であり、一人あたり150〜200万円を超えることも珍しくありません。
しかし、その分だけ手間が少なく、確実に要件を満たす人材に会える利点があります。
対して「求人広告」や「転職サイト」は、掲載プランや期間によって費用が変動。
広く母集団を集められるのが強みですが、複数媒体の併用やオプション追加を行えば支出は増え、採用できなければ掛け捨てになるリスクもあります。
また、「ダイレクトリクルーティング」は、運用次第で費用を抑えられる手法ですが、候補者のリストアップやスカウト文面の作成といった「担当者の工数」が成果を左右。
それぞれの費用感と特徴をまとめると、以下のようになります。
重要なのは、費用の高低だけで良し悪しを決めないことです。
中途採用は「時間を買う(スピード重視)」側面も強いため、コストが高くても早期に即戦力が採れれば、事業上のメリットは大きくなります。
「採用スピード」「人材の質」「定着率」を含めたROI(投資対効果)を検証し、自社のフェーズに合わせて予算配分を最適化することが重要。
採用コスト削減に効果的な採用手法
採用コストの削減とは、単に予算を削ることではありません。「掛け捨て」になりがちな広告費への依存を減らし、「資産」となる自社の採用力を高めることこそが本質。
求人広告や人材紹介会社任せにするのではなく、自社が主体となって候補者とつながる仕組みを構築できれば、長期的なコスト効率は劇的に向上します。
とくに、リファラル採用やアルムナイ採用、ダイレクトリクルーティングといった手法は、「低コスト」と「高マッチング」を両立できる手段として、多くの成長企業が導入を促進。
ここでは、コストを最適化しながら採用成果を最大化する、代表的な5つの手法を紹介します。
リファラル採用
リファラル採用とは、自社の社員から知人や友人を紹介してもらう採用手法です。
エージェントや求人媒体を介さないため、かかる費用は紹介者へのインセンティブや会食費程度で一人あたり30〜60万円前後と、圧倒的な低コストで採用できるのが最大の特徴。
コスト面だけでなく「採用の質」が高いことも大きなメリットです。
社風や現場のリアルをよく知る社員が紹介するため、カルチャーフィットの精度が高く、入社後のミスマッチがほとんど起きません。
また、紹介者と候補者の間にすでに信頼関係があるため、面接での本音の対話や入社前の不安解消がスムーズに進み、内定辞退率の低下や採用スピードの短縮にも直結。
ただし、制度を作っただけでは機能しません。
成功の鍵は「制度の周知」と「参加しやすさ」にあります。
紹介ルールの明確化はもちろん、Slackや社内掲示板で定期的に募集要項をリマインドしたり、紹介成功事例を全社で称賛したりすることで、社員の参加意欲を刺激し続けることが重要。
報奨金の額や条件も定期的に見直すと良いでしょう。
リファラル採用は、コスト削減と人材の定着を同時に叶えるだけでなく、社員が自社の魅力を再認識する「組織エンゲージメント向上」の機会でもあります。
長期的な採用力を高めるための土台として、優先的に取り組むべき施策といえます。
リファラル採用の規程については、こちらの記事で詳しく解説
リファラル採用(社員紹介制度)の規定・報酬・雛形の例をわかりやすく解説
アルムナイ採用
アルムナイ採用とは、一度退職した元社員を再び雇用する採用手法です。
いわゆる「カムバック採用」のこと。
最大のメリットは、採用・教育コストの劇的な削減です。
エージェント手数料がかからないうえ、候補者はすでに業務フローや企業文化を熟知しているため、入社後のオンボーディングや研修が最小限で済みます。
また、他社での経験を積んで戻ってくるため、既存の文化に「外の知見」をプラスしてくれる即戦力としても大きな期待ができます。
成功の鍵は、退職者とのつながりを断たないことです。
「辞めたら終わり」にするのではなく、専用のSNSコミュニティや定期的なイベントを通じて緩やかな関係を維持し、「いつでも戻ってこられる雰囲気」を作っておく企業が増えています。
ただし、再雇用にあたっては丁寧なすり合わせが必要。
「以前の退職理由は解消されているか」「現在のスキルに見合った処遇(給与・役職)はどうするか」を明確にし、受け入れる現場メンバーの理解を得ることで、不要な摩擦を防げます。
アルムナイ採用は、信頼関係のある元社員を資産として捉え直す、極めて合理的な採用戦略です。
アルムナイ採用については、こちらの記事で詳しく解説
アルムナイ採用とカムバック採用の違いを解説!メリット・注意点を比較紹介
ダイレクトリクルーティング
ダイレクトリクルーティングとは、求人媒体からの応募を待つのではなく、企業がデータベースから候補者を探し出し、直接アプローチする「攻めの採用」手法です。
最大の特徴は、コストパフォーマンスの高さ。
定額制の場合ではデータベース利用料などの固定費はかかりますが、採用人数が増えるほど一人あたりの単価は下がり、平均して60〜100万円程度に収まる傾向があります。
また、エンジニアや専門職、管理職といった「市場に出てきにくい優秀層」にピンポイントで接触できるのも強みで、事前にレジュメ(経歴書)を確認してからスカウトを送るため、スキルや志向のミスマッチを未然に防ぐことが可能。
ただし、成功させるには「運用力」が問われます。
定型文の一斉送信では返信は望めません。「なぜあなたに声をかけたのか」という熱意を込めて、候補者ごとにスカウト文面をカスタマイズ(パーソナライズ)する必要があります。
開封率や返信率などのKPIを細かく分析し、PDCAを回し続ける泥臭さも必要ですが、その分だけノウハウが社内に蓄積され、手間をかけてでも「自社の採用力」そのものを強化したい企業にとって、最適な選択肢といえるでしょう。
おすすめのダイレクトリクルーティングサービスは、こちらの記事で紹介
ダイレクトリクルーティングのおすすめサービス一覧26選!費用やメリットを解説
SNS運用
SNS運用は、求人広告という「枠」に囚われず、求職者と日常的な接点を築くための強力な手法です。
Instagramではオフィスの雰囲気や社員のランチ風景を、X(旧Twitter)では社内のリアルな声を、LinkedInではビジネス観やカルチャーを各プラットフォームの特性を活かして発信することで、広告費をかけずに認知を広げ、潜在的な候補者層を拡大できます。
最大のメリットは、テキストだけでは伝わらない「空気感」を共有できる点。
写真やショート動画を通じて、働く人々の表情やイベントの熱量を伝えることで、求職者の心理的ハードルを下げ、応募への動機付けを強化。ありのままの姿を見せることは、入社後のギャップを防ぎ、早期離職の防止にも直結します。
運用の肝は、「即効性を求めず、信頼を積み重ねる」こと。
フォロワーからのコメントやDMに丁寧に反応し、コミュニケーションを深めることで、企業への愛着(エンゲージメント)は育まれます。
一朝一夕で結果が出るものではありませんが、継続することで「この会社で働きたい」というファンを増やし、将来的な採用コストを劇的に下げる資産となるはずです。
SNS採用については、こちらの記事で詳しく解説
SNS採用とは?明日から実践できる採用戦略や成功のコツを徹底解説
採用サイト活用
採用サイトの整備は、長期的にコストを最適化するための「基盤づくり」です。
いまや求職者のほとんどは、どの経路(求人媒体、紹介、SNSなど)で知ったとしても、最終的には企業の公式サイトを検索して情報を確認します。
つまり、採用サイトは「すべての候補者が訪れる最終的な受け皿」であり、ここでの情報量と熱量が、応募ボタンを押すかどうかの決定打に。
コンテンツとしては、募集要項などの基本情報に加え、社員インタビュー、オフィスツアー動画、ミッション・バリューの解説、FAQなどを充実させることが重要。
テキストだけでなく、写真や動画を駆使して「働くイメージ」を解像度高く伝えることで、ミスマッチを防ぎ、志望度を高めることができます。
また、サイトは各種施策のハブ(中心)としても機能します。
SNSやダイレクトリクルーティング、リファラル採用からの誘導先を自社サイトに一本化し、SEO対策を行うことで、広告費をかけずに自然検索からの流入を増やすことも可能。
採用サイトへの投資は、単なる広報費ではありません。自社の魅力を正しく伝え、機会損失を防ぐための「長期的な資産」として、優先的に取り組むべき施策です。
一人当たりの採用コストを下げる実践ステップ

採用コストの削減は、単に予算を削るだけでは成功しません。質を落とさずにコストを下げるには、プロセス全体を俯瞰し、無駄な工程や効果の薄い投資を洗い出す作業が不可欠。
まずは現状の採用単価を正しく把握(可視化)して、データに基づいて投資配分を見直すことで、無理なく効率的な体制へとシフトできます。
ここでは、今すぐできる見直しから、将来の資産となる仕組みづくりまで。着実にコストパフォーマンスを高めるための手順を、6つのステップに分けて紹介。
採用単価を可視化する
コスト削減の第一歩は、現状の数値を正確に「診断」することです。
まずは、採用にかかるすべての費用を「外部コスト」と「内部コスト」に分けて洗い出します。そのうえで、新卒・中途といった採用区分ごとにコストを割り振り、それぞれの採用単価を算出。
こうして数値を一覧化することで、ブラックボックス化していたコスト構造がクリアに。
例えば「広告費に対して応募が少ない」「特定のエージェントへの支払いが多すぎる」といった課題が一目瞭然になるでしょう。
単年度の数値だけでなく、過去のデータと比較して推移を追うことも大切。コストの上昇要因を特定できれば、チャネルの見直しや運用体制の変更といった「打つべき手」が自然と見えてきます。
現状把握は、改善に向けた地図を描く作業です。
ここを丁寧に行うことが、結果として最短ルートでのコスト削減に寄与。
採用チャネルの投資対効果を分析する
採用コストの最適化には、チャネルごとの費用対効果を測定・比較することが不可欠。単に「費用がいくらかかったか」を見るだけでは、その投資が成功だったのか失敗だったのかは判断できません。
分析の基本となるのは、採用1名あたりにかかった費用を示す「CPA」の算出です。
求人媒体、人材紹介、リファラル、ダイレクトリクルーティングなど、チャネルごとにCPAを出し、どこが最も効率よく採用できているかを横並びで比較。
ただし、注意すべきは「CPAが安ければ良い」とは限らない点です。
たとえ獲得単価が高くても、採用した人材のパフォーマンスが高く、長く定着してくれるなら、長期的なROIはプラスになり、逆に、安く大量に応募が来ても、採用に至らなかったり、すぐに離職されたりするなら、そのチャネルは「割高」と判断すべき。
見た目の応募数や目先のコストに惑わされず、「採用の質」「定着率」までを含めて総合的に評価すること。 このデータ検証を定期的に行い、本当に成果を生む領域へ予算を再配分することが、筋肉質な採用活動への近道。
採用プロセスを効率化する
採用プロセスの効率化は、内部コスト(人件費)の削減だけでなく、選考スピードを上げて候補者の満足度を高めるための最重要課題です。
まずは、応募から内定までの全工程を可視化し、重複作業や形骸化した承認フローがないかを点検。その上で、人がやらなくても良い業務は徹底的にデジタル化しましょう。
面接日程の自動調整ツールや、クラウド上での評価シート共有を導入すれば、情報の整合性を保ちながら、担当者の工数を劇的に減らすことができます。
また、一次面接のオンライン化や、案内メールのテンプレート化も有効です。 選考プロセスを一貫させ、レスポンスを速めることは、候補者の不信感を払拭し、辞退率を下げることに直結。
効率化は、決して手抜きではありません。
事務作業の時間を減らし、候補者と向き合う時間を増やすこと。そして、機会損失を防いで採用成功率を高めるための「攻めの改善」。
定期的にプロセスを見直し、データに基づいて改善を重ねることで、少ないリソースでも成果を出し続ける強い採用体制が作られます。
チャネルを最適化して費用配分を最適にする
採用コストの最適化とは、すなわち「投資配分の最適化」。手当たり次第にチャネルを広げるのではなく、費用対効果の高い“勝ち筋”にリソースを集中させる戦略が求められます。
まずは、チャネルごとの「応募数」「採用率」「定着率」をデータ化、貢献度を可視化。
CPAが高く成果の出ない媒体や紹介会社は勇気を持って縮小し、浮いた予算をリファラル採用や自社サイト、SNSといった高効率なチャネルへ再投資することで、無駄な支出を減らせます。
このとき、単価の安さだけでなく「質の高さ」や「スピード」も考慮してバランスを見ることが重要で最適化の目的は、単なるコストカットではなく、投資対効果を最大化すること。
効果の低いチャネルを見切り、成果につながるチャネルへ予算と時間を重点的に投じる。
定期的にポートフォリオ(予算配分)を組み替えることで、採用単価を適正化しつつ、質の高い人材を確保し続ける体制が整います。
定着率を高めて再採用を防ぐ
採用コストを長期的に抑えるための究極の方法は、採用した人材の「定着率」を高め、再採用(穴埋め採用)をゼロに近づけることです。
短期で離職が発生すれば、投じた採用費が水の泡になるだけでなく、教育コストや引き継ぎ工数、再募集費用といった間接費が雪だるま式に膨らんでいきます。
採用費は「入社時の単発コスト」ではありません。「総コスト ÷ 活躍期間」で算出し、長く活躍してもらうことで初めて費用対効果が合うという視点を持つことが重要。
定着率を高めるには、入社前後のギャップをなくすことが最優先です。
採用段階で自社のカルチャーや厳しさを正直に伝え、ミスマッチを未然に防ぐ。そして入社後は、メンター制度や定期面談を通じて心理的安全性を確保し、孤立させない環境を作ること。
とくに最初の3ヶ月(オンボーディング期間)の手厚いフォローは、その後の定着を左右。
「採用」と「定着」を一貫したプロセスとして設計し、長く活躍できる土壌を整えることこそが、最も確実なコスト削減策です。
コスト削減に効果的な施策を実践する
採用コストの最適化において重要なのは、「守り(短期的な削減)」と「攻め(中長期的な基盤構築)」を両立させることです。
一時的なコストカットで満足するのではなく、費用対効果の高い手法を段階的に取り入れ、自社の採用ポートフォリオを組み替えていく姿勢が求められます。
具体的なアプローチとして、まずは社内資産を活用する「リファラル採用」や「アルムナイ採用」が有効で、これらは媒体費をかけずに、自社文化を深く理解した人材を確保できるため、定着率向上という質的な成果も期待できます。
次に、「ダイレクトリクルーティング」の導入です。待ちの姿勢から脱却し、ターゲットを狙い撃ちすることで、採用単価をコントロールしながら精度を高められます。
そして、土台となるのが「SNS」や「採用サイト」による発信。
日常の社風や社員の姿を継続的に伝えることは、ミスマッチを防ぐだけでなく、企業のファンを育て、将来的な応募コストを下げる大きな資産となります。
これら複数の手法を組み合わせ、PDCAサイクルで検証と改善を続けること。その粘り強い運用こそが、外部環境に左右されない、筋肉質で持続可能な採用体制を実現する原動力となります。
採用コストの算出時によくあるQ&A
採用コストの理論は理解できても、いざ実務で計算しようとすると「この費用は含めるべき?」「どこまで厳密にやるの?」と判断に迷う場面は多いものです。
正確なコスト管理を行うには、費用の境界線や、コスト削減がもたらす影響について正しく理解しておく必要があります。
そこで、多くの人事担当者から頻繁に寄せられる「よくある質問」を3つピックアップ。迷いやすいポイントを整理しましたので、自社のルール作りの参考にしてください。
採用単価の算出時に、社内人件費や教育費も含めるべきですか?
はい、可能な限り含めて算出するべきです。
採用コストを正確に把握するには、求人広告費などの「目に見える外部支出」だけでなく、採用担当者や面接官、教育担当者の工数といった「見えにくい内部コスト」も計上することが欠かせません。
これらを時給換算して合算することで、「実は面接回数が多すぎてコストが嵩んでいた」「現場の負担が大きすぎた」といった本当の課題が見えてきます。
採用活動の効率と費用対効果(ROI)を正しく評価するためにも、内部コストを含めた「総額」で管理することをおすすめします。
採用コストを下げると、採用の質も落ちませんか?
いいえ、方法さえ間違えなければ質は落ちません。
重要なのは、単に予算を削るのではなく、コスト削減の「中身」を見極めることです。
例えば、「応募が来ない媒体の掲載をやめる」「面接日程の調整を自動化して工数を減らす」といった削減であれば、採用の質には全く影響しません。
むしろ、浮いた予算や時間を「リファラル採用」や「候補者との対話」といった質の高い活動に再投資することで、コストを下げながら採用力を高めることができます。
「必要な投資」と「無駄な出費」を区別することが、賢いコスト最適化のポイント。
採用コストと採用ROIはどう違うのですか?
「いくら使ったか(支出)」と「どれだけ得したか(成果)」の違いです。
採用コストは、採用活動にかかった費用の「総額」に過ぎません。一方、採用ROIは、その費用に対して「どれだけの利益や成果が返ってきたか」を表す指標です。
例えば、採用費に100万円かかったとしても、その人材が入社後に1,000万円の利益を生み出すなら、ROIは非常に高い(=良い投資だった)といえます。
逆に、採用費が10万円で済んでも、すぐに離職してしまえばROIはマイナス。
重要なのは、目先の支出(コスト)を減らすことだけではありません。
採用を「投資」として捉え、「かけた費用以上のリターンが得られているか」を測定することが、強い組織を作るためのポイントです。
採用コストを見直し、効率的な採用を実現しよう
採用コストの見直しは、単なる「経費削減」ではありません。
無駄を省き、浮いたリソースを質の高いチャネルへ再投資することで、企業の採用力そのものを底上げする重要な経営戦略です。
まずは外部・内部コストを可視化し、どこにボトルネックがあるのかを突き止めてください。
そのうえで、成果の低いチャネルへの依存を減らし、リファラルや自社サイト、ダイレクトリクルーティングといった「資産になる手法」へ軸足を移していくことが大切。
さらに、採用した人材が長く活躍してくれれば、実質的なコストは下がり続けます。
採用費を「かけっぱなしの消費」で終わらせるのではなく、次の採用を楽にする「未来への投資」に変えていく。その意識改革こそが、持続可能な採用成功への最短ルートとなるでしょう。